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本と酒と怠惰

二六

今までも、現在進行形でも、母親から様々な痛み、悲しみ、恐怖、苦しみを味合わされているのだけれど、そのなかでも突出して強烈なものがある。記憶というか映画のワンシーンのように再生されるというか。

精確な年齢は失念したが、ピアノを習っている時期。

小さな私は楽しくピアノを弾いている。誰もいない、だからこそ楽しい自宅の部屋。新しい曲をもらったからだろうか、先生に褒められたからだろうか。ひどく嬉しそうだ。

が、唐突にひとつのミスをしてしまう。そのせいで母親が部屋に入ってくる。ひとりきりの楽しい楽しい時間は終わりを告げる。ああ、今回もか……。と、小さな私は半ば諦めにも似た気持ちに襲われる。バシン!と、ピアノの蓋が閉まる音と同時に未だ爪を噛み続けている原因にもなる、激しい痛み。部屋を去っていく、母親の大きな足音。少しでも気が紛れるといい。そう願いながら、血の滲んだ指や爪を噛む小さな私。

あるいは、こうだ。

ピアノの前に、ピアノを背にして少女が座り込んでいる。どうしたの?と、問いかける。ママに怒られたの。と、少女が答える。その顔は、数少ない昔の写真に写っている小さな私だ。

どうして怒られたの?と、もう一度、問いかけてみる。けれど少女は、ママに怒られたの。としか答えない。

私はダメなやつだ。と思うたびにこういう光景が広がる。まだ、お仕事の最中はそこまでいったことはないけれど、朝晩の、静かな時間にはピアノの音まで聞こえてくる。少女と対話できるほど鮮明だ。やっぱりまだまだ私は病人なのでしょうか。